「隣人を自分のように愛しなさい」という言葉は、聖書の中で最も重要な掟である、とイエスが語っている言葉です。同じようにパウロも、聖書のすべての掟が「隣人を自分のように愛しなさい」という言葉に要約されると語っています。ですからこれは、イエスに従って生きようとするキリスト者にとっての規範となる言葉です。
12章9～10節にはこのように書かれています。
「愛には偽りがあってはなりません。悪を憎み、善から離れず、兄弟愛をもって互いに愛し、尊敬をもって互いに相手を優れた者と思いなさい。」
互いに愛し、尊敬し合うことの大切さが語られています。「隣人を愛する」ということは、私たち人間が守るべきこと、私たちにとって大切なことだとわかります。
ただしそれには一つの前提があります。それは「自分を愛する」ことです。聖書は単に「隣人を愛しなさい」と教えているのではありません。「隣人を自分のように愛しなさい」と教えているのです。隣人を愛することは、自分を愛することが前提となっている。隣人を尊敬し、大切にするためにも、自分自身を尊敬し、大切にしていいのです。
だからパウロもイエスも、自分のことは考えずに、他の人のことを考えなさい、とは言っていません。自分を軽蔑し、蔑ろにしているのに、他人を尊敬し、重んじなさいとは言わないのです。隣人を愛することと、自分を愛することは、どちらも関連しています。だから神様は、私たちには自己犠牲を求めているわけではないのです。
自己犠牲が美化されることがしばしばあります。歴史を振り返れば、戦時中は国を守るために自己犠牲をすることが徹底的に求められていました。戦後は新しい社会が作られていきましたが、自己犠牲を美化することがなくなったわけではありません。自分のことを犠牲にして、誰かのために・何かのために働くことが良しとされ、感動的な話として紹介されることもあります。
たとえ犠牲にしているのが自分自身であっても、それを神様が喜ぶのでしょうか。神様は私たちのことを――すべての人のことを――愛し、かけがえのない存在としてくださいます。神様にとって大切な一人ひとりを犠牲にすることを、神様が喜ぶとは思えません。
神様に愛された自分を、自分でも愛し、大切にする。そのこともイエスに倣うことです。イエスの行動をいくつか思い浮かべてみましょう。
初めに、マルコによる福音書1章35節では、「朝早くまだ暗いうちに、イエスは起きて、人里離れた所へ出て行き、そこで祈っておられた。」ということがありました。イエスのもとには大勢の人たちが病人や悪霊に取りつかれた人々を連れて来ました。イエスは病人を癒し、悪霊を追い出しました。
しかし、イエスはいつも人々に囲まれていたわけではありませんでした。イエスはしばしば、群衆やご自身の弟子たちから離れて、一人で人里離れたところへ出かけていきました。そこで静かに神様に向かって祈られたのです。人びとを癒し、神の言葉を伝えることはイエスにとって重要なことでしたが、一人で祈る時間を無くすことはしませんでした。
それと同じように、各地を回ってきた弟子たちが帰って来ると、イエスは「さあ、あなたがただけで人里離れた所へ行って、しばらく休むがよい」と言われました（マルコによる福音書6章31節）。人間には休息が必要であること、与えるばかりでなく、受けることも必要であることを、イエスは弟子たちにも教えたのでした。
次に、マルコによる福音書2章15節を見ると、イエスが徴税人のレビの家に招かれて、食事の席に着いておられます。また、ルカによる福音書8章3節を見ると、女性たちが「自分の持ち物を出し合って、（イエス）一行に奉仕していた」ことが書かれています。このように、イエスはご自身の働きや生活を助けてもらっていました。その働きの中で、一緒に食事を楽しみ、また必要な助けを得て、親しい交わりをすることも、イエスにとって欠かす事のできないことでした。
同じように、イエスは弟子たちにも他の人たちからの助けを受けるように教えました。マタイによる福音書10章10節で、弟子たちを村から村へと遣わすときに、「町や村に入ったら、そこで、ふさわしい人はだれかをよく調べ、旅立つときまで、その人のもとにとどまりなさい」と教えました。弟子たちは旅に何も持って行ってはならないと言われましたが、同時に、「働く者が食べ物を受けるのは当然である」と言って、必要な物はその村の人たちから受けるよにしたのです。
毎週の礼拝で祈っている「主の祈り」でも、イエスは私たちが必要な糧を与えられるように祈ること、負い目からの赦しを求めること、誘惑から逃れられることを教えられました。それが必要な時、私たちは求め、探し、門をたたくことをイエスから教えられました。イエスに従い、主なる神様に仕えるためにも、私たちの必要が満たされ、癒されることが必要ですし、そのことを祈り求めることができるのです。
イエスがご自身や弟子たちを尊重したように、私たちも自分自身を尊重してよいのです。そうすることが神様に創られ、神様に愛された私たち人間の本来のあり方なのです。私たちの心の中に自分のことを軽んじたり、自分の価値を低く見てしまったりする部分があるとしたら、それは神様から受け取ったメッセージではないのです。
私たち人間は、互いに愛し合って生きるものとして創られました。つまり、互いの存在を尊重しながら共に生きる、ということです。誰もが尊重されるべき価値をもっている。神様に愛され、神様によって作られた人間に、一人として軽んじられていい人はいない。そのことには私たち自身を含めて、例外がないのです。イエス・キリストは神の愛をその言葉と行いによって露わにしました。イエスはすべての人に向けて神の国の福音を語り、すべての人のために十字架にかかられました。私たちも神様に愛された一人ひとりです。
神様がすべての人を愛し、尊重してくださったのですから、私たちもそれに倣うべきです。そうであるならば、私たちは最も身近な存在である自分自身を愛し、尊重するところから始めるでしょう。それは何も傲慢になったり、利己的になったりすることではありません。他の人を大切にするように、自分自身のことも大切にする、ということだからです。
そのためには、必要な助けを求めることも大切です。私たちの生きる社会では、助けを求めることにマイナスのイメージがあるように感じます。自分の力で何でもできることが大事だと言われ続けると、助けを求めづらくなります。助け合わない社会になっていったことで、みんなが生きづらさを感じているのではないでしょうか。
そうであるならば、私たちはもっと助けを求めていいのです。いつも・誰でも助けられるとは限りませんが、助けを求められたらそれに応えたいと思う人は必ずいます。思っていたよりもたくさんいるかもしれません。助けを求められると、自分が必要とされていると感じて、自分が大切な存在だと思えることもあります。助けを求めることは、自分を大切にすることであるし、助けを求めた人に信頼を示すことでもあるのです。
「隣人を自分のように愛しなさい」。それは自分を愛し、尊重することが前提となっていました。神様に愛され、他の人たちからも愛され、自分でも自分を愛することができたとき、私たちは隣人を愛することへと押し出されていきます。イエスは自分を愛することだけでなく、それ以上に隣人を愛することを教え、実践されました。
ルカによる福音書12章48節には、「すべて多く与えられた者は、多く求められ、多く任された者は、更に多く要求される。」というイエスの言葉があります。与えられることが前提ですが、与えられたならば、そのことへの応答が求められている。自分が受けた愛に応えて、自分も愛を行うことが期待されているのです。
神様が私たちに生命を与え、私たちが生きられる世界を創り、私たちと共に生きる人びとと出会わせてくださった。日毎に必要な糧を備えてくださり、喜びも悲しみも分かち合い、いつも共に歩んでくださった。私たちが神様から離れ、人を傷つけてしまうときも、私たちを赦し、再び立ち上がらせてくださった。私たちの弱さを受けとめ、守ってくださった。
そのような神様の愛は、イエス・キリストの十字架において現わされました。神様は私たちのために、ご自身を惜しみなく与える方なのです。パウロもこう述べています。
「もし神がわたしたちの味方であるならば、だれがわたしたちに敵対できますか。わたしたちすべてのために、その御子をさえ惜しまずに死に渡された方は、御子と一緒にすべてのものをわたしたちに賜らないはずがありましょうか。」（ローマの信徒への手紙8章31～32節）
「わたしたちは確信しています。死も、命も、天使も、支配するものも、現在のものも、未来のものも、力あるものも、高い所にいるものも、低い所にいるものも、他のどんな被造物も、わたしたちの主キリスト・イエスによって示された神の愛から、わたしたちを引き離すことはできないのです。」
私たちをご自身の子どもとして愛し続けてくださる神様に、私たちも倣う者に変えられていきます。自分自身のことも、他の人のことも、神様に愛された大切な一人ひとりとして尊重し、尊敬し、重んじる者であり続けましょう。
牧師 杉山望
October, 16, 2022, Sunday Worship Service
"Let us respect ourselves and others"
Scripture reading is taken from Romans 13:8-10
The words "love your neighbor as yourself" are the most important law in the Bible, Jesus said. Likewise, Paul said that all the laws of the Bible can be summed up in the words, "Love your neighbor as yourself". This is, therefore, the normative word for Christians who seek to live according to Jesus.
In chapter 12, verses 9-10, it says like this.
"Love must not be false. Hate evil and do not depart from good, but love one another with brotherly love and consider one another superior with respect."
The importance of loving and respecting one another is mentioned. We can see that "love your neighbor" is something that we humans should observe, something that is important to us.
However, there is one prerequisite for this. It is to "love yourself". The Bible does not simply tell us to "love our neighbors". It teaches us to "love our neighbors as ourselves". Loving your neighbors presupposes loving yourself. In order to respect and value our neighbor, we can also respect and value ourselves.
So neither Paul nor Jesus is telling us to think of others without thinking of ourselves. They don't tell us to respect and value others while contempting and despising ourselves. Loving your neighbor and loving yourself are both related. So God is not asking us self-sacrifice.
Often self-sacrifice is glorified. Looking back in history, during wartime, self-sacrifice was thoroughly seeked to protect the country. After the war, a new society was created, but this does not mean that self-sacrifice is no longer glorified. Sacrificing oneself to work for someone or something is considered a good thing and is sometimes presented as an inspiring story.
Even if the sacrifice is our own, does that please God ? God loves us - all of us - and makes us irreplaceable. I don't think God would be pleased with us sacrificing each one of us who are important to Him.
Love and cherish yourself as God loves you. That, too, is to follow Jesus. Let us recall some of Jesus' actions.
First, in Mark 1:35, we read, "Early in the morning, while it was still dark, Jesus arose and went out to a secluded place and prayed there." This is what happened. A multitude of people came to Jesus, bringing with them the sick and those possessed by evil spirits. Jesus healed the sick and cast out demons.
But Jesus was not always surrounded by people. Often Jesus would go off by himself to a secluded place, away from the crowds and his own disciples. There he prayed silently to God. Healing people and preaching the word of God were important to Jesus, but he did not lose time to pray alone.
Likewise, when the disciples returned from their travels, Jesus said, "Now go yourselves to a secluded place and rest a while" (Mark 6:31). Jesus was also teaching His disciples that human beings need rest, not only to give but also to receive.
Next, in Mark 2:15, Jesus is invited to sit down to a meal in the house of Levi, a tax collector. In Luke 8:3, we read that the women gave their possessions and ministered to [Jesus'] company. Thus, Jesus was being assisted in His ministry and life. In the course of his ministry, enjoying meals together, getting the help he needed, and having close fellowship were also indispensable to Jesus.
In the same way, Jesus taught His disciples to receive help from others. In Matthew 10:10, when he sent his disciples from village to village, he told them, "When you enter a town or village, examine who is suitable and stay with him until the time of your departure". The disciples were told not to take anything with them on their journey, but at the same time, "they were to receive what they needed from the people of the village", saying, "It is natural that those who work should receive food".
In the Lord's Prayer, which we pray every week in worship, Jesus also taught us to pray for the provisions we need, to ask forgiveness for our debts, and to flee from temptation. When we need it, Jesus taught us to seek, search, and knock at the gate. We need our needs to be met and healed in order to follow Jesus and serve the Lord God, and we can pray for that.
We can respect ourselves as Jesus respected himself and his disciples. It is the true nature of us human beings, created by God and loved by God, to do so. If there is any part of our hearts that belittles ourselves or lowers our value, it is not a message we have received from God.
We human beings were created to live in love with one another. In other words, we live together while respecting each other's existence. Everyone has value to be respected. No one person, loved by God and created by God, is to be taken lightly. There are no exceptions to that, including ourselves. Jesus Christ revealed God's love by his words and deeds. Jesus spoke the gospel of the Kingdom of God to all people and died on the cross for all people. We are each one of us loved by God.
Since God loved and respected all people, we should follow it. If so, we would begin by loving and respecting the one closest to us, ourselves. This does not mean becoming arrogant or selfish. It means taking care of ourselves as we take care of others.
To do this, it is also important to ask for the help we need. In the society we live in, there seems to be a negative image of asking for help. If we continue to be told that it is important to be able to do everything by ourselves, it becomes difficult to ask for help. I believe that we have become a society that does not help each other, and this makes it difficult for all of us to live.
If that is the case, then we should ask for more help. We may not be able to help everyone all the time, but there are always people who are willing to respond to requests for help. There may be more of us than we thought. When you are asked for help, you may feel that you are needed and that you are important. Asking for help is a way of taking care of yourself and showing trust in the person who asked for help.
"Love your neighbor as yourself." This was predicated on loving and respecting oneself. When we are loved by God, loved by others, and love ourselves, we are pushed to love our neighbors. Jesus taught and practiced not only loving ourselves, but more than that, loving our neighbors.
In Luke 12:48, Jesus says, "He who has been given much will be asked for much, and he who has been entrusted with much will be asked for more." Jesus said. It is assumed that you will be given, but if you have been given, you are expected to respond to it. We are expected to do love in response to the love we have received.
God has given us life, created a world in which we can live, and has allowed us to meet people who live with us. He has provided us with the daily bread we need, shared our joys and sorrows, and always walked with us. He forgives us when we fall away from Him and hurt others, and helps us to get back on our feet again. He accepted our weaknesses and protected us.
Such love of God was manifested in the cross of Jesus Christ. God is a generous giver of Himself for us. Paul also said, "If God is on our side, we are on his side.
If God is on our side, who can be against us? He who did not spare even his own Son to die for us all, how can he not also with him give us all things? " (Romans 8:31-32)
"We are convinced that the Son of Man is the bestower of all things. For neither death, nor life, nor angels, nor rulers, nor things present, nor things to come, nor powers, nor things in high places, nor things in low places, nor any other creature shall be able to separate us from the love of God manifested in Christ Jesus our Lord."
We are transformed into followers of God who continues to love us as His own children. Let us continue to respect, honor, and value ourselves and others as precious individuals loved by God.
Pastor: Nozomu Sugiyama
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