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小さな声の中に

Amber ClayによるPixabayからの画像

 

アフガニスタンの人たちに寄り添い、用水路を掘り、65万人の生活と命を救った故中村哲医師の著書『天、共に在り――アフガニスタン三十年の闘い』の終章に、日本に生きる私たちへのメッセージが記されています。2011年の東日本大震災と原発事故の後のいきさつに落胆しながら、中村医師はこう語ります。

 

「世の流れは相変わらず『経済成長』を語り、それが唯一の解決法であるかのような錯覚をすりこみ続けている。経済力さえつけば被災者が救われ、それを守るため国是たる平和の理想も見直すのだという。これは戦を図上でしか知らぬ者の危険な空想だ。……暴力と虚偽で目先の利を守る時代は自滅しようとしている。今ほど切実に、自然と人間の関係が根底から問い直された時はなかった。」

 

初版の発行から9年が経とうとしていますが、中村医師の指摘した「錯覚」や「空想」は、未だに語られ続けています。強者は「暴力と虚偽で目先の利を守る」ことを繰り返してきました。その矛盾と、そこから生じる苦悩は、アフガニスタンのような国々に押し付けられてきました。しかし、「地球温暖化による沙漠化という現実に遭遇し、遠いアフガニスタンのかかえる問題が、実は『戦争と平和』と共に『環境問題』という、日本の私たちに共通する課題として浮き彫りにされた」。暴力と虚偽による今の時代は自滅しようとしており、新たな時代への模索が始まっています。

 

「やがて、自然から遊離するバベルの塔は倒れる。人も自然の一部である。……科学や経済、医学や農業、あらゆる人の営みが、自然と人、人と人との和解を探る以外、我々が生き延びる道はないであろう。それがまっとうな文明だと信じている。その声は今小さくとも、やがて現在が裁かれ、大きな潮流とならざるを得ないだろう。」

 

新たな時代への希望は、このような小さな声の中にこそあるように思います。

 

牧師 杉山望