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神の平和

Gerd AltmannによるPixabayからの画像 

 

2022年度の教会の主題が『主の恵みによる平和』に決まりました。この主題が選ばれた理由にも挙げられていたように、今、平和について考えるときに、ロシアによるウクライナ侵攻のことを考えないではいられません。このことについて、『福音と世界5月号』の連載の中で村澤真保呂氏が指摘していたことは重要な視点だと思います。

 

村澤氏は、「国家間対立の解消手段は、戦争(暴力)、競争(財力・権力)、論争(知力)の順で発達した」というガブリエル・タルドの主張を紹介しています。この侵攻の背景としては、「NATOの東側への拡大とともに、欧米中心のグローバル経済・政治体制への不満と危機感、また対立解消の機関としての国連への不信」があります。タルドの主張に沿うならば、「論争」が機能しておらず、「競争」でも対立が深まるばかりであったので、「戦争」へと逆戻りした、と捉えることができます。

 

村澤氏は現在の状況を、「『厳罰主義』と呼ばれる近年の刑事政策と似ている」と指摘します。「つまり犯罪者が犯行にいたった事情や背景を問いもせず、また私たちの社会の側にも原因の一端があることを認めず、たんに厳しく処罰すれば犯罪を防ぐことができるという考え方である。しかし、犯罪の背景にある社会構造を変えないかぎり、犯罪を防ぐことができないことは明白である。それと同じく、戦争の背景にある国際的な政治・経済の構造的要因を見直さないかぎり、戦争を一時的に止めることはできても、なくすことはできないのだ。」

 

旧約聖書においては神が正義と公正に適った社会の姿を示し、新約聖書ではイエスが社会構造に組み込まれた暴力や差別に立ち向かいました。私たちが掲げる「神の平和」は、戦争をなくすことだけでなく、競争による不正義や不平等をも作り変え、論争(ことば)によって新しい関係を築いていくものでしょう。

 

牧師 杉山望