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支え合いのサバイバル術

SimonによるPixabayからの画像

大学生の頃から発展途上国のスラムや難民キャンプで生活を共にしてきたノンフィクション作家の石井光太さんは、『本当の貧困の話をしよう』という著書の中で、途上国と日本の貧困の違いを説明しています。途上国での貧困は、1日に使える金額が1.9ドル未満という絶対的貧困で、安い食事を1日1、2回取れるかどうか、貯金はできないので、病気や怪我で働けなくなるなどとたんに生活が破綻してしまいます。スラムは家が過密状態になっており、電気や水道などの設備は不完全。下水施設も整っていないために非衛生的で、栄養不良も相まって、幼い子どもが肺炎や下痢でたくさん死んでしまいます。

 

途上国では福祉制度が整っていない分、相互扶助という名の「支え合いのサバイバル術」がある、と石井さんは言います。スラムでは複数の家族が普段から食費を出し合って一緒に食事をしています。そのうちの一家族が病気で寝込んでも、他の家族の収入があれば食べていくことができる。一家族の家が台風で吹き飛ばされても、建て直すまでの間、他の家族の家に避難することができる。普段から関係が作られているからこそ、何かあった時に支え合えるのです。ただし、関係が近い分だけ人間関係に悩まされることも起こりやすく、仲たがいが起これば村八分にされることもあります。イエス様が生まれ育ったガリラヤの農民たちも、似たような関係性をもって厳しい時代を生き抜いていたのでしょう。

 

同じような関係は昔の日本にもありましたが、経済成長と共に核家族化が進んでいきました。それによってしがらみから自由になりましたが、同時に横のつながりが弱くなり、自分たちだけでは解決できない問題に押しつぶされることも起こりやすくなりました。その分、福祉制度が整えられてきましたが、支え合う関係を失いすぎているのかもしれません。

 

教会も、制度的な支援だけでなく、支え合いが必要です。バプテスト教会は「各個教会主義」を特徴としますが、それはこの時代を生き抜いていくために支え合いの関係を持つことと両立します。普段から交わりをもち、互いのことを覚えて祈り合い、いざという時には助け、また助けられる。時に煩わしいことがあっても、そんな関係を深めたいと思います。

 

牧師:杉山望