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平和と希望を引き継ぐ

Amber ClayによるPixabayからの画像

一昨年の12月、アフガニスタンで医療や農業面での人道支援に取り組んで来られた中村哲医師が銃撃され、亡くなりました。中村さんが現地代表を務めていたNGO「ペシャワール会」は、「中村先生の事業は全て継続し、希望は全て引き継ぐ」を合言葉に、現地の人々と協働して、活動を続けています。昨年度には新たな取水堰(せき)に着工し、この取水方式の普及活動も行っておられます。風が吹けば砂嵐が舞うほどに乾燥した大地が、用水路からの水によって潤され、一面が緑に変わった写真を見たときの驚きは忘れられません。まして、その水によって命を支えられる現地の人々の感動はいかほどでしょうか。

 

アフガニスタンでの支援活動は、危険を伴うものでもありました。中村さん自身も危険な目にあったことはありましたし、ペシャワール会のスタッフが犠牲になったこともありました。それでも中村さんは暴力を選ぶことはありませんでした。著書『天、共に在り』の中で、中村さんはこのように書いておられます。「『信頼』は一朝にして築かれるものではない。利害を超え、忍耐を重ね、裏切られても裏切り返さない誠実さこそが、人々の心に触れる。それは、武力以上に強固な安全を提供してくれ、人々を動かすことができる。私たちにとって、平和とは理念ではなく現実の力なのだ。私たちは、いとも安易に戦争と平和を語りすぎる。武力行使によって守られるものとは何か、静かに思いをいたすべきかと思われる。」

 

旧約聖書において「平和」や「平安」と訳されるヘブライ語の“シャローム”は、単に争いのない状態を指すわけではありません。それは人々の繁栄をも意味しますし、正義が行われ、困窮する人々が助けられることも含みます。それが現在のことを指す場合もあれば、終末の希望として語られることもあります。「平和」という言葉は、暴力による支配や格差を伴う繁栄を指して語られることもあります。しかし、神が創造し、主イエスがもたらし、聖霊が導く平和(シャローム)は、暴力や格差とは相容れません。それは一朝一夕に完成するものではありませんが、この世の究極的なゴールとして示されているのです。私たちも、主イエスの平和と、中村さんの希望を引き継ぐ者でありたいと願います。