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腐るお金

martaposemuckelによるPixabayからの画像

荒れ野を旅するイスラエルの民に与えたパンは、毎朝、大地をうっすらと覆うように積もっていた“マナ”でした。人々は毎朝、それぞれが食べる分を集めました。不思議なことに、ある者は多く集め、ある者は少なく集めたのに、オメル升で量ってみると、多く集めた者も余ることなく、少なく集めた者も足りないことはありませんでした。甘い蜜の入ったウェファースのような味がするマナは、余分に集めて翌朝まで残しておいても、虫が湧いて臭くなってしまいました。

 

2002年からドイツの街で導入された地域通貨“キムガウアー”は、街の人たちから「腐るお金」と呼ばれているそうです。それはお金がパンでできている、ということではなくて、紙幣に発行年月が印字されており、時間と共に価値が減っていく、ということです。半年ごとに3%ずつ価値が減るので、100万円のキムガウアーが、半年後には97万円、一年後には94万円の価値になります。

 

キムガウアーは地域の活性化を促しています。地元でしか使えないので地産地消が進み、環境負荷が減りました。キムガウアーを法定通貨(ユーロなど)に替えるときには、両替額の3%が地元のNPOに寄付されるため、NPOの活動も活発になりました。どの団体に寄付するかは、店舗で買い物をした人が決めることができます。お金の回るスピードは従来の約3倍になり、消費税などの税収も増え、街の福祉も充実していったそうです。

 

この地域通貨の発行者は、「現在のお金の仕組みには大きな欠陥がある」と指摘しています。お金で買う“物”は時間と共にその価値を失っていくのに、お金だけはその価値を失わず、「お金が神様のようになっている」と言うのです。また、現在のシステムでは量的な成長が重視されすぎており、環境破壊も、人の時間や命をないがしろにすることも止めることができていません。このような地域通貨を作ることで、法定通貨を不要としたわけではありませんが、利潤追求や経済成長とは異なる方向性で地域の発展に挑戦しているのです。

 

神様がマナを与えたのは、空腹を満たすことだけが目的ではありませんでした。それは、「人はパンだけで生きるのではなく、人は主の口から出るすべての言葉によって生きることをあなたに知らせるため」(申命記8:3)でもあったのです。