マタイによる福音書7章7～12節、24～28節（聖書 新共同訳）
7:「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば、開かれる。
8:だれでも、求める者は受け、探す者は見つけ、門をたたく者には開かれる。
9:あなたがたのだれが、パンを欲しがる自分の子供に、石を与えるだろうか。
10:魚を欲しがるのに、蛇を与えるだろうか。
11:このように、あなたがたは悪い者でありながらも、自分の子供には良い物を与えることを知っている。まして、あなたがたの天の父は、求める者に良い物をくださるにちがいない。
12:だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。これこそ律法と預言者である。」
24:「そこで、わたしのこれらの言葉を聞いて行う者は皆、岩の上に自分の家を建てた賢い人に似ている。
25:雨が降り、川があふれ、風が吹いてその家を襲っても、倒れなかった。岩を土台としていたからである。
26:わたしのこれらの言葉を聞くだけで行わない者は皆、砂の上に家を建てた愚かな人に似ている。
27:雨が降り、川があふれ、風が吹いてその家に襲いかかると、倒れて、その倒れ方がひどかった。」
28:イエスがこれらの言葉を語り終えられると、群衆はその教えに非常に驚いた。
メッセージ
家と土台のたとえ話
イエス様が山の上で語られた教え、いわゆる「山上の説教」（マタイ5～7章）の最後は、たとえ話で閉じられています。それは「家と土台たとえ話」です。二人の人が家を建てました。二人が建てた家は、どちらも同じようなものです。ただ、家を建てた場所が違いました。一人は岩の上に自分の家を建てました。そしてもう一人は砂の上に家を建てました。岩の上に家を建てた人は賢い人、砂の上に家を建てた人は愚かな人と呼ばれています。
二人がそのように呼ばれた理由は、雨が降った時に明らかになります。イスラエルには乾季と雨季がありますが、家を建てるのは乾季でした。家が完成して雨季になると、川に水が流れ始めました。まとまった雨が降ると、川の水はあふれ出し、建てたばかりの家を巻き込みます。さらに強い風も吹き始め、家に襲いかかりました。
するとどうでしょう。岩の上に建てた家は洪水や強風にも負けず、しっかりと立ち続けました。岩を土台としていたからです。しかし、砂の上に建てた家は、水と風が襲いかかると倒れてしまいました。その倒れ方はひどく、立て直すことも簡単ではありませんでした。
家づくりの土台となる基礎工事が重要なことは、今も昔も変わりません。家の基礎の部分は、家が完成した後では見えなくなりますが、その基礎の部分が家全体を支える土台であり、そこがしっかりしていてこそ、丈夫な家になります。しっかりとした地盤の上に土台を置く工事をすることで、基礎の部分が揺るがない家の土台となるのです。
この「家と土台のたとえ話」は、山上の説教を締めくくりであり、そこで語られたイエス様の言葉に注意深く耳を傾け、その教えに従って生きようとすることの大切さを伝えています。イエス様の言葉という土台の上に自分の存在や人生を建てることによって、この世の暴風にも耐えることができる、ということです。
土台作りの始め
イエス様の言葉――特に山上の説教の言葉――を土台としようとするときに、まずどの言葉に注意を向けたらよいのでしょうか。その中には、「腹を立ててはならない」とか、「復讐してはならない」とか、「敵を愛しなさい」といった教えもあります。
それらも大事なことであり、土台を作るものですが、そこに最初に注意を向けることはあまりお勧めできません。それらの教えばかりに注意を向けると、それが単に守らなければならないリストになってしまうかもしれません。いつの間にか自分が律法主義的な態度になってしまい、それを守ることができたら合格、守れなければ失格とされる、と考えてしまうかもしれません。そうすると神様よりも自分の行いに意識が向けられてしまい、揺るがない土台を作ることにはならないでしょう。
一つの可能性ですが、私はまず、7章7節から12節の言葉に注意を向けたらいいのではないかと考えています。12節には「黄金律」と呼ばれる言葉もあり、そこまでに語られた倫理的な教えを要約しています。そのようなこともあるので、山上の説教のイエス様の言葉を自分の土台とするときも、まず7節から12節のイエス様の言葉に注意を向けることから始められると思うのです。
神様は良い物をくださる
「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば、ひらかれる。だれでも、求める者は受け、探すものは見つけ、門をたたく者は開かれる。」（7:7～8）
これは、漠然と求めることではありません。神様に求める人に対して、神様が良い物をくださいます。神様に求め、神様を探し、神様の門をたたく。つまりこれは、神様への祈りなのです。神様は、私たちの祈りに応えてくださいます。
ただそれは、私たちの願望が何でも叶えられるということではありません。神様は自動販売機のように、私たちが求めたものをそのまま与えるようなお方ではありません。そのように考えてしまうことは、神様を偶像化し、神様の名を自分のために利用することであり、イエス様が教えたこととは反対の姿勢になってしまいます。
神様が祈りに応えられるということを、イエス様は次のように説明されました。
「あなたがたのだれが、パンを欲しがる自分の子供に、石を与えるだろうか。魚を欲しがるのに、蛇を与えるだろうか。このように、あなたがたは悪い者でありながらも、自分の子供には良い物を与えることを知っている。まして、あなたがたの天の父は、求める者に良い物をくださるにちがいない。」（7：9～11）
ここから私たちが求め、神様が与えてくださるものは、私たちに本当に必要なものであることがわかります。パンと魚は、当時の基本的な食事でした。私たちが生きるために必要なもの、欠かすことができないものを求めるとき、神様はその祈りに応えて良い物を与えてくださいます。
私たちも、自分の子供や大切な人が生きるために必要な物を求めていたら、それに応えないはずがありません。パンを求められているのに石を与えるようなことはしません。私たちは過ちも犯し、自分勝手でもありますが、それでも良い物を与えます。そうであれば、神様が良い物を与えない方であるはずがないのです。
神様は、「悪人にも善人にも太陽を昇らせ、正しい者にも正しくない者にも雨を降らせてくださる」お方です（5：45）。私たちは悪い者であるときも、善い者であるときもあります。しかし神様はいつも変わることなく、私たちに太陽を登らせ、雨を降らせてくださいます。神様は私たちを愛してくださいます。その愛は、私たちがどのような者であるときも、決して変わることなく、揺らぐことなく、私たちに向けられています。
神様の愛は、イエス様の十字架に決定的に現れました。神様は、ご自身の身を引き裂かれることになったとしても、私たちへの愛を決して無くすことがありません。私たちの一人でさえ失うことを、身を裂かれるほどに痛み、悲しみ、それゆえに何としても私たちを救い出そうとしてくださる。神様にとってたった一人の人も、高価で尊い存在、かけがえのない大切な存在なのです。
求めれば与えられることで結ばれた絆
求めなさい、そうすれば、与えられる、ということを、大人になって自分の生活に当てはめようとすると、そんなことはなかなかないと思うかもしれません。けれども、これは誰にとっても人生の初めに体験されるべきことでした。私たちは誰もが与えられることに身を委ねるしかない赤ん坊の姿で生まれ、育ちました。「求めなさい、そうすれば、与えられる」ということが成り立つからこそ生きていける、ということが、人生の初めにはあったのです。
幼少期のころの体験は、ほとんど覚えていないことが多いでしょう。けれども、その体験は生涯において大きな影響を与えています。それはまるで、家が建てられた後には家の土台が見えなくなるけれども、その土台が家を支える重要なものであることが変わらないようなものです。人生の初めに、「求めなさい、そうすれば、与えられる」ということを体験したかどうか、ということは記憶には残りませんが、自分の中には深く刻み込まれています。
求めれば与えられるという体験は特別な存在である人との間に安定した絆を結びます。その絆によって、人は自分が大切な存在であると信じられるようになります。その絆を結ばれたことによって、自己肯定感をもつことができるわけです。
さらにその絆は、いざというときの避難場所にもなります。危険な目にあったときにもトラウマが残りにくくなり、不安やストレスに対しても抵抗力が作られます。陰から家を支えている土台のように、求めれば与えられたことで作られた絆が、人を守り、支えるのです。
しかし残念なことに、全ての人がこのような絆を与えられるわけではありません。求めても与えられない、探しても見つからない、門をたたいても開かれない、という経験をしながら成長することになってしまった人も少なくありません。近年、むしろそのような人が増えているとも言われています。
絆を結ぶことができなかった人は、自己肯定感をもつことができず、不安やストレスに弱くなり、危機的な状況ではトラウマが残りやすくなります。心の弱さだけでなく、免疫機能まで弱り、体調も崩しやすくなるそうです。様々な形で生きづらさを抱え、人との関係でも問題を抱えやすくなってしまいます。
どれほど進歩した世界であっても、このような絆が人に必要であることは変わっていません。色々な物を求めれば与えられたとしても、この絆を結ぶことに代えられるものではありません。現代人の生きづらさや苦悩の根底に、この問題が関わっているのかもしれません。
神様との絆を土台とする
神様は、この絆――求めなさい、そうすれば、与えられる、ということによって結ばれる絆――を、私たちと結んでくださいます。人が結ぶ絆は不安定なものとなってしまうかもしれませんが、神様が私たちと結ぶ絆は揺るがない絆です。それが私たちを支える安心の土台となるのです。
神様が、「わたしに求めなさい、そうすれば、良い物を与えよう」と言っておられます。そして確かに神様は、私たちの祈りに応え、良い物を与えてくださいます。それは、私たちの求めていたイメージとは少し違っているかもしれません。あるいは願っていた時とは違う時になるかもしれません。けれども、神様が私たちの祈りを聞いていなかった、ということはありません。
神様は、「願う前から、あなたがたに必要なものをご存じ」です（6：8）。だから、神様は私たちにふさわしい時に、ふさわしい形で、私たちの求めに応えてくださいます。私たちが嵐に襲われるようなときには神様が私たちの避難場所となって守ってくださいます。
神様は決して揺らぐことはありません。その神様が私たちを招いてくださる言葉――「求めなさい、そうすれば、与えられる」という約束の言葉――を私たちの土台としたいと思います。
（2020年9月20日／牧師・杉山望）
September 20th,2020 Sunday Service
"An unwavering and stable foundation"
Scripture reading taken from Matthew 7:7~12, 24~28
Parable of the Wise and Foolish Builders
The end of the so-called "Sermon on the Mount (The Beatitudes)" (Matthew 5-7), which Jesus spoke on the mountain, is closed with a parable. It is the parable of the “Wise and Foolish builders”. Two people built a house. The houses they built are similar. However, the place where the house was built was different. One built his house on a rock. And the other built a house on the sand. Those who build houses on rocks are called wise people, and those who build houses on sand are called foolish people.
The reason why they were called that way becomes clear when it rains. Israel has a dry season and a rainy season, and the dry season was the time to build a house. When the house was completed and the rainy season began, water began to flow into the river. When it rains a lot, the water of the river overflows and floods the newly built house. An even stronger wind began to blow and struck the house.
How about then? The house built on the rock survived the floods and strong winds and continued to stand firmly. Because it was based on rocks. However, the house built on the sand collapsed when the water and wind struck. The way it collapsed was terrible and it was not easy to recover.
The importance of foundation work, which is the foundation of home building, has not changed. The foundation of the house will no longer be visible after the house is completed, but the foundation is the one that supports the entire house, and if it is solid, it will be a strong house. By laying the foundation on a solid ground, the foundation will become the centre of the house without shaking.
This "parable of the Wise and Foolish builder" concludes the Sermon on the Mount and conveys the importance of listening carefully to the words of Jesus spoken there and trying to live according to those teachings. By building your own existence and life on the basis of the words of Jesus, you can withstand the storms of this world.
Beginning of foundation building
When trying to build on the words of Jesus, especially the words of the Sermon on the Mount, which words should we pay attention to first? Some of them teach you "don't get angry", "don't take revenge", or "love your enemies".
They are also important and lay the groundwork, but it is not advisable to pay attention to them first. If you focus only on those teachings, it may checklist of things that you have to keep. Before you know it, you may think that you have a legalistic attitude, and if you can keep it, you will pass, and if you can't keep it, you will be disqualified. If you do so, you will be more conscious of your actions rather than God, and you will not be able to lay a solid foundation.
It's one possibility, but I think it's best to pay attention to the words in chapters 7: 7-12. In verse twelve, there is also a word called the "golden rule," which summarizes the ethical teachings spoken so far. Because of this, I think that when you base yourself on the words of Jesus in the Sermon on the Mount, you can start by paying attention to the words of Jesus in verses 7 to 12.
God gives us good things
"Ask and it will be given to you; seek and you will find; knock and the door will be opened to you. For everyone who asks receivers; the one who seeks finds; and to the one who knocks, the door will be opened."(7: 7-8)
This is not a vague request. God gives good things to those who ask him. Ask God, look for God, and knock on God's gate. In other words, this is a prayer to God. God responds to our prayers.
However, that does not mean that all our desires can be fulfilled. God is not the kind of person who gives us what we want, like vending machines. Thinking that way is to idolize God and use God's name for yourself, which is the opposite of what Jesus taught.
Jesus explained that God can answer prayers as follows.
"Which of you, if your son asks for bread, will give him a stone? Or if he asks for a fish, will give hima snake? If you, then, though you are evil, know how to give good gifts to your children, how much more will your Father in heaven give good gifts to those who ask him!"(7: 9-11)
From here, we can see that what we ask for and what God gives us is what we really need. Bread and fish were the basic diets of the time. When we seek what we need to live and what is essential, God responds to that prayer and gives us good things.
If our children and loved ones are desiring things essential for living, there is no way that we would deny them their needs. We don't give stones when they asked for bread. We make mistakes and we are selfish, but we still know how to give good things to our special ones. If so, God cannot be someone who does not give good things.
God is the one who "causes his sun to rise on the evil and the good, and sends rain on the righteous and the unrighteous" (5:45). We can be bad and good. But God always causes the sun to rise and sends rain to us. God loves us. That love is directed at us, no matter who we are, never changing, unwavering.
God's love decisively appeared on the cross of Jesus. God will never lose his love for us, even if he is torn apart. Losing even one of us is unbearably painful and sad, and therefore willing to rescue us at all costs. Every single person for God is an expensive and precious being, an irreplaceable and important being.
Bonds that are tied by asking and being given
If you grow up and try to apply the fact that you ask, and you will be given, to your own life, you may think that it is difficult to do so. But this was something everyone should experience at the beginning of life. We were born and raised in the form of babies who have no choice but to commit ourselves to on the receiving side. We were able to live because the idea of "ask and it will be given" held true, and it was the very first lesson we learned in our lives.
In many cases, we hardly remember our childhood experience. But that experience has had a huge influence on our lives. It's as if the foundation of a house becomes invisible after it's been built, but that foundation remains an important part of supporting the house. I don't remember experiencing "ask and it will be given" at the beginning of my life, but it's deeply engraved in me.
The experience of being given if asked creates a stable bond with that special person (father, mother, etc.). That bond allows people to believe that they are important. By forming that bond, you can have a sense of self-affirmation.
Furthermore, that bond can also be an evacuation site in case of emergency. Trauma is less likely to remain even after experiencing dangerous situation, and resistance to anxiety and stress is built. Like the foundation that supports the house from the shadows, the bonds that are created by the relationship of “asking and receiving” protects and supports people.
However, unfortunately, not all people are given such a bond. Many people have grown up with the experience of not being given even if they ask, not finding even if they are searching, and being unable to refused even if they knock on the gate. In recent years, it is said that such people are increasing.
People who could not form a bond cannot have a sense of self-affirmation, are vulnerable to anxiety and stress, and are more likely receive trauma from a crisis situation. Not only the weakness of the mind, but also the immune function is weakened, and it is easy to get sick. It makes it difficult to live in various ways, and it is easy to have problems in relationships with people.
No matter how advanced the world is, people still need this kind of bond. Even if you ask for various things and are given, it is not a substitute for this bond. This problem may be related to the difficulty and suffering of modern people.
Based on the bond with God
God will make this bond with us, the bond that is formed by asking and being given. The bond that people make may become unstable, but the bond that God makes with us is an unwavering bond. That is the foundation of peace of mind that supports us.
God is saying, "Ask me, and I will give you good things." And surely God responds to our prayers and gives us good things. It may be a little different from the image we were looking for. Or it may be a different timing than you were hoping for. However, it does not mean that God did not hear our prayers.
God "knows what you need before you asked" (6: 8). Therefore, God will respond to our demands in the right way when it is right for us. When we are hit by a storm, God will be our refuge and protect us.
God never shakes. I would like to base ourselves on the words that God invites us, the words of the promise that "ask, and you will be given."
Pastor Nozomu Sugiyama
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