ペンテコステ
今日はペンテコステです。ペンテコステは、日本語では「聖霊降臨日」とも呼ばれ、死から復活したイエス様が天に上げられた後、弟子たちに聖霊が降ったことを記念する日です。教会にとっては、クリスマスやイースターと同じくらい大切な日です。
この日にどんなことが起こったのでしょうか。イエス様が十字架の死から復活した後、４０日にわたって弟子たちに現われました。その日々の中で、イエス様は弟子たちと一緒に食事をしていたときに、「あなたがたは間もなく聖霊によってバプテスマを受けます」（１：５）と言われました。
イエス様が天に上げられた後、ユダヤ教の三大祭の一つである五旬祭の日がやってきました。この三大祭の時には、各地から大勢のユダヤ人がエルサレム神殿へ巡礼にやってきます。巡礼者は数百万人にもなった、という資料もありますから、この日も非常に多くの人がエルサレムに集まっていたことでしょう。
そんな祭の日のエルサレムで、ある家に弟子たちが集まっていました。メンバーが１章１３～１４節と同じであれば、そこにいたのはペトロ、ヨハネ、ヤコブ、アンデレ、フィリポ、トマス、バルトロマイ、マタイ、アルファイの子ヤコブ、熱心党のシモン、ヤコブの子ユダ、さらにはイエス様に従ってきた婦人たちと、イエス様の母マリアとイエス様の兄弟たちです。これらの人が一つになって、「心を合わせて熱心に祈っていた」（１：１４）のです。
すると突然、激しい風が吹いてくるような音が天から聞こえてきました。その音は家中に響いたので、家の中にいた人たちは激しい風の音しか聞こえません。すると今度は目に見えるものが現れました。現れたものは「炎のような舌」です。聖書では、炎は人間を清めるものとされています。また「舌」は言葉をも意味します。ですからここでは、人間を清める言葉が、目に見える形で表れたのです。
「炎のような舌」は分かれ分かれに現われ、集まっていた一人一人の上に留まりました。すると、一同は聖霊に満たされて、“霊”が語らせるままに、それぞれが他の国々の言葉で話し出しました。
エルサレムに集まっていた人たちは、この物音を聞いて集まって来ました。すると、みんなが自分の故郷の言葉を聞いたのです。集まったのはみんなユダヤ人でしたが、各地に分かれて暮らしていた人たちで、それぞれ別の言葉を話しました。その人たちが自分たちの故郷の言葉をガリラヤの人たちが話しているのを聞き、彼ら・彼女らは驚き怪しみました。「なぜガリラヤの人たちが、自分たちの言葉で神様の事を語っているのだろうか？」
この後、ペトロが集まった人たちにイエス様のことを語り、一日に３０００人ほどの人が仲間に加わりました。これが、キリスト教会の誕生とも呼ばれるペンテコステの日に起こった出来事です。
ガリラヤの人たち
ペンテコステで、集まった人たちが驚き怪しんだのは、自分たちの故郷の言葉を、ガリラヤの人たちが話していたからです。もしそれが別の人たちであれば、それほど驚かなかったかもしれません。ガリラヤとはどのようなところであり、ガリラヤの人たちはどのように見られていたのでしょうか。
ガリラヤは、パレスチナの北部にあるガリラヤ湖の西側の小さな地域です。エルサレムを含む南のユダヤの地域から見ると、北のサマリアよりもさらに北側にあります。ガリラヤもユダヤ人が暮らす土地でしたが、地理的にはユダヤから離れたところにありました。
ガリラヤは町から町へと旅する商人が通る地域でもありました。ガリラヤは現在の中東やヨーロッパ、アフリカを結ぶ地点にあるため、いつの時代も周辺の大国が経済的また軍事的な目的で、ガリラヤを支配下に置こうとしました。また、荒れ地の多いパレスチナの中で、ガリラヤから豊かに生み出される農産物も奪おうとして、争いが何度も引き起こされていました。
イエス様の時代、紀元１世紀のパレスチナは農業社会でした。人口の９０％以上が農村に住み、農業を中心とした生活をしていました。漁業をしたり、大工の仕事をしたりする人もいましたが、生活の中心は農業でした。
一方で、エルサレムのように大きな町には、貴族や政治的な権力者、多くの土地をもつ大富豪や大商人たちが暮らしていました。そのような人たちからすれば、ガリラヤは中央から遠く離れた辺境の地域です。ガリラヤはエルサレムから遠く、そのために神殿へ巡礼することもなかなかできません。ガリラヤは経済的に貧しく、軍事的な力もなく、信仰的にも中心から外れたところと見られていたのです。
ガリラヤの人たちは家族総出で大地を耕し、農地を工夫して作物を生み出しました。村の人たちが互いに助け合い、協力し合って、生きる知恵を働かせてきました。けれども、都市に住む人々による経済的な搾取や、天候不順による不作によって、多額の借金を負う人も珍しくありません。そのようなときには、土地を売り、奴隷や日雇い労働者として社会の底辺で生きていくことになりました。
さらには、借金のために家族を順番に売ることも起こりました。特に家族の中で若い女性が最初の犠牲者となったため、家の娘たちにとっては、貧しさが大きな脅威となっていました。ガリラヤの人たちは、大きな権力に翻弄され、不正義や不公平の犠牲とされる人たちでもあったのです。
ただその中で、ガリラヤの人たちは外からの権力に抵抗しながら、ガリラヤの大地で必死に生きました。様々な抑圧と搾取、差別の中で、神様の正義と神の国を待ち望む信仰が強められていました。その信仰的な土壌があったからこそ、イエス様はこのガリラヤで福音を宣べ伝え、弟子たちが従っていったのかもしれません。
神様の言葉を伝える器
ペンテコステの驚きは、このようなガリラヤの人たちに聖霊が降ったことによってもたらされました。つまり、中央にいて、力をもった人たちからすれば、取るに足りない地方の、貧しく、無学なガリラヤの人たちが、様々な言葉で神様のことを語っている、ということの驚きです。「あの人たちはガリラヤ人だ」と言うとき、それは単に出身地を指しているのではなく、聞くべき言葉もない人たちだ、という否定的な考え方がその背後にあるのです。
しかし、神様はこのガリラヤの人たちを選びました。イエス様をガリラヤのナザレ出身の人として遣わした神様は、同じガリラヤの人たちを通して最初に神様のことを語らせたのです。この世では優れた者ではないと見なされるような人たちを清め、語るべき言葉を与えたということが、ペンテコステの奇跡でした。
弟子たちは権力を与えられたわけでもなければ、特別な教育を受けたわけでもありません。彼ら・彼女らは相変わらずガリラヤの人であり、普段の言葉はガリラヤの方言でした。神様はイエス様に従ったガリラヤの人たちを別の人に変えたわけではありません。社会的な地位を上げられたわけでもなければ、特殊な能力を備えたわけでもありません。彼ら・彼女らはそのままのガリラヤの人として、神様の言葉を伝える器として選ばれたのでした。
突然、違う国の言葉を話した、ということは、もちろん驚くべき出来事です。けれどもここでは、取るに足りない者と思われていた人たち、中心からは遠いところに生きる人たちを、神様があえて選ばれた、ということが驚きをもって伝えられています。神様の選びとは、社会の常識とはまったく違う仕方で行われます。神様の言葉は、神様の恵みと憐れみに生きる者に託され、伝えられていくのです。
それぞれの言葉で伝えよう
ペンテコステは教会の誕生日とも呼ばれます。教会は神様の言葉を語り伝えますが、そのことがどのようになされるのか、ということを、ペンテコステの出来事が教えてくれます。
始めに弟子たちは「一同が一つになって集まって」（２：１）いました。教会は異なる人たちが一つに集まるところに作られます。ただ、教会は一つであるだけではありません。一つになって集まっていた弟子たちに、炎のような舌は「分かれ分かれに現れ、一人一人の上に」（２：３）留まりました。これは与えられる賜物が一つではなく、それぞれに異なることを現しています。
教会は個人として集まり、生きる群れです。みんなが同じになるのではなく、信仰によって一つとされながら、それぞれに神様から与えられた賜物が生かされます。同じ神様を見上げながら、多様性が生かされるところでこそ、教会の豊かさが発揮されるのです。
そのような教会が語り伝える言葉は、牧師だけが語るものではありません。牧師はその働きのために神学校で学び、日々の学びを続けます。けれども、神学校に行った者だけが神様の言葉を伝えられるのではありません。ペンテコステに、弟子たち一人一人に聖霊が降ったように、教会に集う一人一人に神様は言葉を与え、それぞれの言葉で神様のことを伝える器となされるのです。
もし、「私には神様のことを伝えることができない」、と思っていたら、それは大間違いです。それはペンテコステの日に、驚き怪しんでいた人たちの考えです。私たちは誰にでも聖霊が与えられ、自分が与えられた言葉で神様のことを伝えることができます。聖霊が私たちに語るべき言葉を与えてくださいます。だから私たちは、それぞれの言葉で神様のことを伝えます。その言葉を聞いた時に、「私の言葉で神様のことが語られた」と思う人が、きっといるからです。
（2020年5月31日・日曜礼拝／牧師・杉山望）
May 31st,2020 Sunday Service
"My Word is being spoken"
Scripture reading taken from Acts 2:1~13
Pentecost
Today is the Pentecost. The Pentecost, also known as "The Day the Holy Spirit descent" in Japanese, is a day to commemorate the descent of the Holy Spirit on the disciples after the resurrected Jesus was raised to heaven. For the church, it's as important as Christmas and Easter.
What happened on this day? After Jesus was resurrected from the death on the cross, he appeared to his disciples in a span of 40 days. During those days, Jesus was saying, "You will soon be baptized by the Holy Spirit" (1: 5) when he was eating with his disciples.
After Jesus was raised to heaven, Shavuot (The Feast of Weeks), one of the three major Jewish festivals, came. Many Jews from all over the world come to the Temple of Jerusalem for pilgrimages during these three festivals. There are documents that the number of pilgrims has reached millions, so it seems that so many people were gathering in Jerusalem on that day as well.
In Jerusalem on such a festival, the disciples were gathering at a house. If the members were the same as in Acts 1:13-14, there were Peter, John, Jacob, Andrew, Philip, Thomas, Bartholomae, Matthew, Jacob the son of Al-Fay, Simon the Zealot, Judas son of Jacob, the women who followed Jesus, Mary the Mother of Jesus and the Brothers of Jesus. These people joined together constantly in prayer. (1:14).
Then, suddenly, a sound like a violent wind came from heaven. The sound echoed throughout the house, so the people in the house could only hear the sound of heavy wind. What came after that was something visible to the eyes. What seemed to be tongues of fire appeared. In the Bible, fire purifies humans. "Tongue" also means words. So here, the words that purify humans appeared in a visible form.
The "tongues of flames" that appeared came to rest on each those who gathered. Then they were all filled with the Holy Spirit and each spoke in the language of another country as the Spirit enabled them.
The people who were gathering in Jerusalem heard this noise and came together. Then everyone heard the words of their hometown. The people who gathered were all Jews, but the people lived in different parts and spoke different languages. They were surprised when they heard the Galileans speaking the language of their homeland. "Why are the Galileans talking about God in our own words?"
After this, Peter told the people who had gathered about Jesus, and about 3,000 people joined that day. This is what happened on the day of Pentecost, also known as the birth of the Christian Church.
Galileans
At Pentecost, the people who gathered were surprised and bewildered because the people of Galilee were speaking the words that were native to their hometown. If it were different people, it might not have been so surprising. What was Galilee and how were the Galileans viewed?
Galilee is a small area to the west of Lake Galilee that is in the north of Palestine. If you see from the southern Jewish region including Jerusalem, it is further north of Samaria in the north. Galilee is also a land where Jews lives, but geographically far from Judah.
Galilee was also an area where merchants passes through as they travel from town to town. Since Galilee is located at the point connecting the present Middle East, Europe, and Africa, the surrounding countries have always tried to put Galilee under control for economic and military purposes. Also, in Palestine, where there are a lot of wastelands, conflicts have been repeated many times in an attempt to steal the rich harvest of the agricultural products from Galilee.
Palestine in the 1st century AD was an agricultural society during the time of Jesus. More than 90% of the population lived in rural areas and lived mainly through agriculture. Some fisherman or carpenter, but most of them were farmers.
On the other hand, in a large town like Jerusalem, there lived nobles, political powers, millionaires and merchants and owners of many lands. To such people, Galilee is a remote area far from the center. Galilee is far from Jerusalem, so it is difficult for Galileans to pilgrimage to the temple. Galilee was considered economically poor, lacking military power, and religiously out of the center.
The Galilee people cultivated the land with the help of their entire family and devised farmland to produce crops. Villagers have helped each other, cooperated, and exercised their survival knowledge. However, it is not uncommon for people to incur large debts due to economic exploitation by people living in the city and poor harvest due to bad weather. At such times, they sold their lands and lived at the bottom of society as a slave and day laborer.
Not just that, in order to reduce debt, family members were sold in ascending order in terms of age. Poverty was a major threat to the daughters of the household as young women were the first to go in the family. The Galileans were also at the mercy of injustice and unfairness, at the mercy of great power.
In it, however, the Galileans fought desperately in the land of Galilee, resisting power from the outside. Through various oppressions, exploitation, and discrimination, the faith that awaits the coming God's justice and the kingdom of God was strengthened. Perhaps because of the faith that lies in that soil, Jesus preached the gospel in Galilee, and his disciples followed.
A vessel that conveys the word of God
One of the surprising points of the Pentecost is that the Holy Spirit descended upon the Galileans. In other words, it is a surprise that the Galileans who are thought as poor, uneducated and insignificant by those who are in power, are speaking about God in various languages. When they say, "he’s a Galilean", they are not just pointing at his hometown, they are also implying negative things like his words is not wroth listening to or the like.
However, God chose these Galileans. God, who sent Jesus to be a person from Nazareth in Galilee, let theses Galileans to be the first to speak about God. It was a miracle of Pentecostal that it purified and gave the words to be spoken through those who would not be considered excellent in the world.
The disciples were not given power or special education. They were still Galileans and their usual language was the Galilean dialect. God did not change the Galileans who followed Jesus into other people. They weren’t raised to a social position, nor do they have special abilities. They were chosen as the Galileans they are, as vessels to convey the word of God.
Suddenly speaking the language of a different country is a surprising event. But here it is also surprising to say that God has chosen those who seemed insignificant and those who live far from the center. God's choice is done in a way that is completely different from the common sense of society. The word of God is entrusted to and passed on to those who live in God's grace and mercy.
Sharing in our own languages
Pentecost is also called the church’s birthday. The church speaks the word of God, and the events of Pentecost tell us how it is done.
At the beginning, the disciples "came together as one" (2: 1). The church is built when different people come together. But there is more than one church. To the disciples who were gathered together, a fiery tongue "separated and came to rest on each of them" (2: 3). This shows that the gifts given are not the same, but different people received different gifts.
The church is a gathering of individuals who live together as a group. Not everyone is the same, but by being united by faith, the gifts given by God are put to use. While looking up at the same God, the richness of the church is demonstrated where diversity is put to good use.
The words that such a church conveys are not limited to pastor’s words. The pastor will study at the seminary for his work and continue his daily learning. However, the ones who can convey the words of God are not limited to only those who went to the seminary. Just as the Holy Spirit fell on each of the disciples in Pentecost, God gives words to each person who gathers in the church, and everyone is used as a vessel to convey God with each word.
If you think "I can't tell you about God", that's a big mistake. That is the thinking of those who were surprised on Pentecost Day. We are all given the Holy Spirit and can speak about God in the words we are given. The Holy Spirit gives us the words to speak. Therefore, we talk about God in any language. I'm sure there are people who when they hear your words, they will think "He is talking about God."
Pastor Nozomu Sugiyama
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